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第八号・2002年10月15日

新名所ふたつ落成
北大路魯山人が陶芸と料理の道を切り開いた山代温泉。
その記念すべき場所に、「魯山人寓居跡いろは草庵」が、
また、吉田屋・宮本屋・九谷本窯など、現代九谷のルーツをめぐる
「九谷焼窯跡展示館」が開館いたしました。


■女将の風信帖8
■サービスは、区別から始まる ― 林 俊介
――林さんは、いろんな町を歩いておられるから、私には怖いお客さまなんです。でも、だから教えていただきたいことがいっぱいあって。
林●商売ですから、いろんなところへ行かなくちゃいけないんですけど、それがすごく楽しいですね。旅のコツというのは、長逗留というか、一ヶ所にいることだと思うんです。それと同時に行きつけをつくるということ。海外の場合は、だいたい十日間ぐらい、パリならパリにしかいないんです。毎朝散歩して、ホテルの近くにあるカフェでクロワッサンと牛乳をもらうというようなことをするんですね。すると行きつけになっちゃうんです。向こうも挨拶をしてくれる。そうすると、俄然、その町が自分にとって親しい町になってしまって、旅人の気持ちが満喫できる。
――せっかく遠くに来たんだから、アレもコレも見よう。と慌しい時間に振り回されるというのが、まだ一般的ですよね。
林●四泊六日ぐらいで三つの都市をめぐる、なんて貧しい旅の仕方をするのは、次の機会が想像できないんだろうと思うんですね。ぼくは、やはり、一旦どこかへ行くと、次はいつ来ようというふうに思う。あらやさんなら、あらやさんだけに行って、また次の機会にと。
――だから、怖いんですよ。しっかり裏も表も見られてしまうから。本当は、そういうお客さまにこそ、ご満足いただけないとダメなんですけれど。二泊三泊のお客さまが少しずつ増えてきて、うれしいなという気持ちと、私どものサービスはこれでいいのかしらという不安がありましてね。
林●サービスというのは、実は区別から始まるんですね。ファミリーレストランでは、本来のサービスは絶対に成立しないんです。
のどぐろ塩焼き
正式名は「赤むつ」。 口を開けたノドから腹の中までの内皮が黒色をしているところから「のどぐろ」と呼ばれています。 新潟沖から山陰地方にかけて獲れる魚。 塩焼きにするともっともうまい魚の一つで、こってりと油ののった味わいは鯛以上ともいわれています。
だから、どんな高級ホテル、高級寿司店に行っても、日本の場合は混在してしまう。つまり、そのお店にふさわしいお客さまと、そうでないお客さまがいっしょになっちゃうんです。そうすると、サービスも混乱しちゃう。これは欧米では絶対にありえない。それは、ホテルサイド、旅館サイドの問題ではなくて、ゲストの側にそういう心構えがあるんです。あそこはまだ行くべきではないというのが。日本の場合は、門前払いをくらったりすると、逆ギレして腹を立てたりする。なんで入ってはいけないのか、オレは客だ、みたいなことを言うんですね。
――実際、そうなんです。こんな小さな旅館に、いろんなサービスを求められてもできないんです。でも、お断りすることができないで、なんとか、間に合わせてしまうところがあるんです。できないことは、キチンと言うべきなんでしょうけど、それを言えない淋しさがありますね。
林●階級というか、クラスというか、格付けみたいなものが、しっかりできるといいんでしょうけどね。そういう意味では、あらやさんなんかはコンパクトだし、その辺のことは、ある程度できる面があると思うんですよ。ところで、息子さんにお嫁さんが来られたと聞きましたけれど、代を継ぐというのは、一番、難しい。何を守るのか、何を変えるのか、その兼ね合いがね。
――たしかに挑戦すべき課題です。ウチを選んでくださったお客さまに、ずっとかわいがっていただくためにも。また、その目線でお客さまを紹介していただくためにも。そして、電話一本で、何でもわかってあげられる、そういうものを目指したい。これから若い二人が新しいあらやをつくってゆくんですけど、私はむしろ、変えてはならないものを伝えたいと思っているんですよ。

林 俊介はやししゅんすけ
『金澤』編集発行人
欧米のサービスの基本になっているのは、自分の気持ちなんですね。フレンドリーというのがそうだと思うんですけど。したがって、チップというのがすごく生きるんですね。日本では、どちらかといえば、自分の気持ちは隠してしまう。日本の場合のサービスの基本は、「間」でしょうかね。間がいいとか、悪いとか。この間が実に教えにくいんですよ。つまりは、呼吸というか、息を合わせる、ということだろうと思うんですが。
■私の加賀名所
■鶴 仙 渓/出島二郎(プロデューサー・金沢在住)
三十数年前のことだから記憶は覚束ないが、はじめて温泉宿に出かけたのは、山中温泉だった気がしている。旅館の名前も忘れてしまったが、樹木におおわれた川の流れは、今も鮮やかに蘇ってくる。景勝地・鶴仙渓。それは山中温泉の代名詞といってよいが、同時に、加賀温泉郷の象徴の一つでもあろう。そこには旅人を湯の町に誘う原風景がある。
  山中や菊はたおらじ湯のにおひ
俳聖芭蕉の山中温泉の逗留は九泊十日におよんだ。「奥の細道」の終わりも近く、安堵の気持ちがそうさせたのかもしれないが、ここが風雅を解する土地であったからにちがいない。実際、芭蕉の泊った宿の主人の父親は俳諧の愛好者であった。
  石山の石より白し秋の風
小松の那谷寺で詠まれたこの名作も、むろん山中温泉滞在中に生まれたものである。私は句碑めぐりに格別の関心はないけれども、五七五の言葉の宇宙の凄さに感動する。そして、それを発語させた地の力というものに。それは、五七五七七の歌の場合もあるが、ここは俳句でなければならないのだ。
山中温泉はマチづくり運動が盛んなところでも知られる。
八世紀に行基によって開湯された歴史ある温泉町に、新しい生命を吹き込む人びとが育っている。今日は、その景色のフィールドワークに出かけよう。それもまた風流としたいし、かつて北前船が盛んなころ、船頭たちが湯治にきて、追分を口ずさんだところからはじまったという山中節の里で篠笛の名手の友人にも会いたいと思う。
そうだ、国分山医王寺(薬師寺)の二五世・鹿野恭弘住職にも会わねばならない。「フードピア金沢」というイベントを立ちあげたころ、お世話になったのである。真言宗の医王寺の本堂は宝塔タイプのめずらしい建造物であり、中国製とみられる陶製の金剛童子像(国指定重要文化財)が安置されている。さて、次は趣向を変えて、故・勅使河原宏氏の作品である「あやとりはし」を渡ることにしよう。

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